不安障害とは

不安障害とは、強い不安や恐怖を感じ、それが日常生活に支障をきたす精神疾患の総称です。不安は誰にでも起こる正常な感情ですが、不安障害の場合はその不安が過剰であり、自分ではコントロールできなくなります。発症の原因はストレス、性格、遺伝、脳内の神経伝達物質の異常などが関与していると考えられています。
不安障害には以下のような種類があります
- パニック障害
- 突然の激しい不安発作(パニック発作)が繰り返し起こり、動悸や息苦しさ、めまいなどを伴うものです。発作がまた起こるのではないかという「予期不安」が強まり、外出を避けるようになることもあります。詳しくはこちら
- 社会不安障害
(SAD・社交不安障害) - 人前で話す、食事をする、初対面の人と接するなどの社会的状況で極度の緊張や恐怖を感じるものです。対人関係を避けるようになり、仕事や日常生活に影響を及ぼしてしまいます。
- 強迫性障害(OCD)
- 「手が汚れているのでは?」「鍵を閉め忘れたのでは?」などの強迫観念にとらわれ、その不安を打ち消すために手洗いや確認行為を繰り返してしまいます。自分でもおかしいと思いますが、やめたくてもやめられなくなり、生活に支障をきたしてしまいます。
- 全般性不安障害(GAD)
- 特定の状況に限らず、日常生活全般において過剰な不安や心配が続くものです。不安の対象が仕事や健康、家族のことなど幅広く、常に気を張り詰めた状態が続き、疲労や不眠を伴うことが少なくありません。 詳しくはこちら
不安障害の治療
不安障害の治療としては、認知行動療法、薬物療法、生活習慣の改善、環境調整とサポートなどがあります。
認知行動療法(CBT)は、不安を引き起こす思考の歪みを修正し、不安に適応できるようにする心理療法です。例えば、パニック障害の場合では、不安発作が起きても命に関わらないと理解し、回避行動を減らす訓練を行います。
薬物療法は、症状に合わせて使用する薬剤を検討していきます。主に使用する薬は、不安を抑える抗うつ薬です。パニック障害、強迫性障害、全般性不安障害に有効とされる「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」、脳の興奮などを抑えることで不安、緊張、不眠などを改善する「ベンゾジアゼピン系抗不安薬」、社会不安障害の身体症状(動悸や震え)を抑える目的で使用される「β遮断薬」などの種類があり、依存のリスクなどに注意しながら使用していきます。
このほか、規則正しい生活や十分な睡眠、適度な運動などを心がけ、カフェインやアルコールを控えるといった生活習慣の改善も重要になります。さらに家族や職場、学校など周囲の理解を得て、環境を調整していくことも場合によっては必要になります。
パニック障害
パニック障害は、不安障害の一種で、突然強い恐怖や不安を感じる「パニック発作」を繰り返し経験する精神疾患です。発作は特定の状況に関係なく突発的に起こり、動悸や息切れ、めまい、発汗、胸の痛みなどの身体症状を伴います。
発作が起こるたびに、「また発作が起こるのではないか」と強く恐れるようになります。この状態を「予期不安」と呼びます。さらに、発作が起こった場所や状況を避けるようになり、外出することが怖くなったり、電車やバスなどに乗ることができなくなるなど、特定の場所や人混みを避けたりするようになります。これを「広場恐怖」といいます。こうしたことによって、日常生活に大きな支障をきたしてしまうのがパニック障害です。
パニック障害の症状
パニック障害では、「パニック発作」「予期不安」「広場恐怖」と呼ばれる3つの症状が特徴的なものとなっています。
「パニック発作」は、突然の動悸や息苦しさ、めまい、手足のしびれ、強い恐怖感を伴うことが多く、発作が起こると「このまま死んでしまうのではないか」と感じることもあります。通常、発作のピークは10分程度で、その後30分から1時間ほどで自然におさまります。当初は救急車で運ばれる場合もあったり、循環器科や呼吸器科を受診したりしますが、検査をしても何も身体的な異常が見られず、周りから理解されない、ということも生じます。
「予期不安」は、のパニック発作がまた起こるのではないかという不安を持ち続け、さらにその発作が命に関わるものではないかという、パニック発作に対する強い不安感・恐怖感を抱くものです。また「広場恐怖」は、広場に限らず、電車やエレベーターなどの乗り物や人混み、行列に並んでいるときや橋の上、高速道路など、「発作が起きた時、そこから逃れられないのではないか、助けが得られないのではないか、恥をかくのではないか」と不安や恐怖を覚えるものです。
こうした不安や恐怖から、外出することをためらうようになり、一人で行動できず、仕事や日常生活に支障をきたし、引きこもりがちにもなってしまうことがあるのがパニック障害です。
パニック障害の原因
人にはもともと、大災害や事故、命を脅かすような敵に遭遇したときに、それらから逃れるために、激しい動悸や発汗、頻脈などパニック発作と同様の身体反応が起こるような機能が備わっています。パニック障害では、それが何も起こっていない状況において、自分ではコントロールできずに、突然起こってしまいます。
その原因についてはまだ明らかになっていませんが、一因として、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンのバランスが崩れることで、恐怖や不安を適切にコントロールできなくなることが挙げられています。
また、パニック障害の生物学的な発症原因は解明されていませんが、環境要因の影響が大きいと考えられています。環境要因としては、強いストレスや過去のトラウマ、過労、睡眠不足、カフェインやアルコールの影響などがあります。
パニック障害の治療
パニック障害の治療には、薬物療法と認知行動療法が主に用いられます。薬物療法では、脳内の神経伝達物質のバランスを整えるために、「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」などの抗うつ薬や抗不安薬が処方されます。これらの薬は症状を和らげる効果があるため、発作の頻度を減らし、予期不安などを軽減するのに役立ちます。
一方、認知行動療法では、不安を引き起こす思考の歪みを修正し、発作への恐怖を克服していく訓練を行います。例えば、「発作が起こっても命にかかわるものではない」と認識することで、不安を軽減し、徐々に苦手な状況に慣れていく方法が取られます。苦手な状況にあえてさらされる(曝露する)ことで、徐々に症状を改善していく曝露療法が有効な場合もあります。ただし、無理をしないよう、医師と相談しながら進めることが重要です。
全般性不安障害
全般性不安障害(GAD)は、不安障害の一種であり、特定の出来事や状況に限らず、長期間にわたって過剰な不安や心配が続く精神疾患です。日常のささいなことから家庭や学校、職場のこと、お金や健康、交友関係、さらには地震などの天災や世界情勢にまで不安を感じやすく、「常に最悪の事態を考えてしまう」「心配が頭から離れない」といった状態が続きます。
この不安は現実的なリスクをはるかに超えており、本人が「考えすぎだ」と自覚していても、止めることができません。その結果、心身の緊張が続き、息苦しさ、動悸、倦怠感、めまいなどの自律神経失調症のような症状も現れ、生活の質が低下してしまうことがあります。
全般性不安症の症状
日常生活や仕事、学業などさまざまなシーンで、過剰な不安や心配を抱き、そのコントロールが難しい状態が続きます。常に最悪の成り行きを想定してしまい、不安をぬぐい切れない、不安な思いに毎日が支配されてしっていて、常にそのことを考えてしまう、などの症状が見られます。
不安と合わせ、以下のような症状が見られた場合、全般性不安障害が疑われます。
- 落ち着きがなく、緊張感、または神経の高ぶりがみられる
- 疲れやすい
- 集中力が低下している
- 怒りっぽくなった
- 筋肉が緊張している
- 睡眠障害がみられる
- 震えや過度の発汗がみられる
- 吐き気や下痢などがある
- 動機、めまい、頭痛がする
- など
全般性不安障害の原因
全般性不安障害の原因は明確には解明されていませんが、環境要因や遺伝的要因など複数の要因が関与していると考えられています。
ひとつには脳の中の不安や恐怖を感じる器官の機能異常と考えられています。神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンのバランスが崩れることで、不安を適切に制御できなくなるというものです。
また、ストレスの多い環境や、幼少期のトラウマ、完璧主義的な性格、過去の失敗への強いこだわりなどが、不安を強める要因となることもあります。過労や睡眠不足、カフェインの過剰摂取なども、症状を悪化させる要因として知られています。
全般性不安障害の治療
全般性不安障害の治療には、薬物療法と認知行動療法などが主に用いられます。
薬物療法では、抗うつ薬(SSRIやSNRIなど)が処方され、不安を軽減する効果があります。これらの薬は脳内の神経伝達物質のバランスを整え、不安のコントロールを助ける役割を果たします。また、症状が強い場合には、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が短期間使用されることもありますが、依存性や耐性などの問題があるため、慎重に用いられます。
認知行動療法では、不安を引き起こす考え方のパターンを見直し、より現実的で柔軟な思考を身につけることを目指します。「不安な考えが浮かんでも、それが必ずしも現実になるわけではない」と認識することで、過剰な心配を減らしていきます。また深呼吸やリラクゼーション法を学ぶことで、不安が高まったときに落ち着く方法を身につけることができます。
このほか日常生活においても、ストレスを適切に管理し、規則正しい生活を送ることが重要です。適度な運動を行うことで、ストレスホルモンを減少させる効果が期待できます。また、カフェインやアルコールの摂取を控え、十分な睡眠を確保することも、不安を和らげるのに役立ちます。