フレイル

フレイルとは、加齢に伴って心身の活力が低下し、健康と要介護の中間の状態を指します。体の筋力や運動機能が低下するだけでなく、認知機能や社会的なつながりも弱まることで、生活の質が低下し、介護が必要になるリスクが高まります。適切な対策を取ることで、フレイルの進行を遅らせたり、健康な状態に戻したりすることが可能です。
フレイルとサルコペニアはよく似ていますが、サルコペニアは主に筋肉量の減少と筋力低下を指すのに対し、フレイルはそれに加えて、認知機能の低下や社会的な孤立など、より広い範囲の健康状態を含みます。サルコペニアが進行するとフレイルの一因となることが多く、両者は密接に関係しています。
フレイルの原因
フレイルの主な原因は、加齢による身体機能の低下ですが、それに加えて、運動不足や栄養不足が大きく影響します。特にたんぱく質やビタミンの摂取が不足すると、筋肉が衰えやすくなり、活動量が減少することでさらにフレイルが進行します。
また、慢性疾患(糖尿病、高血圧、心疾患、関節疾患など)がある場合は、体の機能が低下しやすく、フレイルになりやすいとされています。さらに、認知機能の低下やうつ病、社会的な孤立もフレイルを加速させる要因となります。例えば、一人暮らしで会話する機会が少なくなると、気力が落ち、外出しなくなり、結果として体力や認知機能が低下するという悪循環に陥ることがあります。進行すると転倒や要介護のリスクが高まるため、早期の対策が重要です。
フレイルの症状
フレイルの初期症状としては、疲れやすくなる、歩く速度が遅くなる、握力が弱くなるなどがあります。たとえば横断歩道を青信号で渡り切れない、ペットボトルのフタが開けられない、といったことがみられるようになります。これらの変化は加齢によるものと思われがちですが、進行すると転倒しやすくなり、骨折や寝たきりの原因になることがあります。
さらに、フレイルは体の機能だけでなく、精神面や社会的な側面にも影響を与えます。例えば、食欲が低下して栄養不足になる、意欲が低下して家に閉じこもりがちになる、趣味や人付き合いが減るなどの変化が見られることがあります。これらが重なると、生活の質が低下し、介護が必要になるリスクが高まります。
フレイルの検査
フレイルの診断には、いくつかの基準が用いられます。一般的に、以下の5つの項目のうち3つ以上に当てはまるとフレイルと判断されます。また1~2つ該当する場合はフレイルの前段階である“プレフレイル”とされます。
- 体重の減少(意図しない4.5㎏または全体重の5%の体重減少がある)
- 疲れやすさ(疲れを感じやすく、何をするのも面倒だと感じる日が週に3~4日ある)
- 歩行速度の低下(歩くスピードが遅くなる)
- 筋力の低下(握力が弱くなる)
- 活動量の低下(運動や日常の動きが少なくなる)
フレイルの治療
フレイルの改善には、適切な運動、栄養の確保、社会とのつながりの維持が重要です。
まず、運動では、筋力トレーニングやウォーキング、ストレッチなどを定期的に行うことが大切です。とくにスクワットやかかと上げなどの下半身の筋力を鍛える運動が効果的です。無理のない範囲で、毎日少しずつ体を動かすことが大切です。患者様によって体の負担になるものもありますので、始める前に医師にご相談ください。
次に、栄養面では、たんぱく質を意識的に摂取することが重要です。肉、魚、卵、大豆製品などをバランスよく取り入れ、カルシウムやビタミンD(乳製品や魚類など)もしっかり摂取することで、筋肉や骨の健康を維持できます。また、食欲が低下している場合は、少量でも高栄養の食品を選ぶと良いでしょう。
社会的なつながりもフレイルの予防に大きく関わります。家族や友人との会話を増やしたり、地域のサークルやボランティア活動に参加したりすることで、気力を維持し、外出の機会を増やすことができます。人との交流は、精神的な健康を保つだけでなく、活動量を増やす効果もあります。高齢者においては、デイサービスに参加し、フレイル対策を行うことも推奨されます。
また、生活習慣の見直しも重要です。十分な睡眠をとることで体の回復を促し、ストレスを減らすことで意欲の低下を防ぐことができます。定期的に健康診断を受け、早めにフレイルの兆候を発見することも大切です。
サルコペニア
サルコペニアとは、加齢などの影響によって筋肉量が減少し、それによって筋力や身体機能が低下する状態を指します。特に高齢者に多く見られ、進行すると歩行が困難になったり、転倒しやすくなったりすることで、寝たきりや要介護のリスクが高まります。筋肉は運動や姿勢の維持だけでなく、基礎代謝やエネルギーの消費にも関わっているため、サルコペニアが進行すると健康全体に影響を及ぼします。
サルコペニアの原因と危険因子
サルコペニアの主な原因は、加齢による筋肉の減少です。通常、筋肉は30歳頃から少しずつ減り始め、60歳を過ぎるとその速度が加速します。この加齢による筋肉の衰えに加え、活動量の低下や栄養不足が重なると、筋肉の減少がさらに進行します。
とくに、たんぱく質の摂取不足は大きな要因の一つです。筋肉は主にたんぱく質から作られているため、食事から十分な量を取らないと、筋肉が作られにくくなります。また、ビタミンD不足も関係しており、ビタミンDが不足すると筋力が低下しやすくなることが知られています。
さらに、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、多発性筋炎などの筋肉量を減少させる病気も原因となります。また慢性疾患(糖尿病、心疾患、がん、慢性腎臓病など)がある場合は、筋肉が減少しやすい傾向があることも知られています。ストレスや長期間の入院も、サルコペニアのリスクを高める要因となります。
サルコペニアの症状
サルコペニアは、骨格筋量と身体機能が一定以上低下している状態です。握力や歩行速度のなどをもとにし、サルコペニアの診断を行います。サルコペニアは初期の段階では、自覚症状はあまりみられませんが、進行するとさまざまな影響が現れます。代表的な症状として、歩くスピードが遅くなる、階段の昇り降りがきつくなる、重いものを持ち上げにくくなるなどがあります。さらに、疲れやすくなり、活動量が減ることで、筋肉の減少が加速する悪循環に陥ることもあります。
サルコペニアが進行すると、転倒や骨折のリスクが高まり、これが原因で寝たきりになるケースもあります。また、筋肉が減ると基礎代謝が低下し、太りやすくなったり、脂質異常症や糖尿病などの生活習慣病のリスクが上がったりすることもあります。さらに、免疫力の低下につながり、感染症にかかりやすくなったり、病気からの回復が遅くなったりということも指摘されています。また嚥下障害が引き起こされ、誤嚥性肺炎の原因となることもあります。
サルコペニアの検査
サルコペニアの診断には、筋肉量、筋力、身体機能の3つを評価します。
骨格筋量を測定する方法としては、DXA(デキサ)法やBIA(生体電気インピーダンス法)などがあります。また、筋力の測定には、握力を測る方法が一般的で、特に男性では28kg未満、女性では18kg未満だとサルコペニアの疑いがあるとされます。
身体機能の評価としては、「歩行速度」が重要な指標となります。通常、1秒間に1m未満の速度でしか歩けない場合は、サルコペニアの可能性が高いと考えられます。また、椅子から立ち上がる動作を何回できるか測定する方法もあります。
サルコペニアの治療
サルコペニアの改善には、運動と栄養の両方が欠かせません。
まず、運動療法では、筋力トレーニングと有酸素運動を組み合わせることが大切です。とくにスクワットやかかと上げ運動、腕立て伏せなどの自重トレーニングは、筋力を効率的に向上させるのに効果的です。ウォーキングや水中運動などの有酸素運動も、筋肉の維持に役立ちます。高齢者のリハビリテーションには、デイサービスのプログラムに参加することも有効です。もし、認知症であれば、運動機能低下に対するリハビリテーションを早期から行うことが推奨されます。
次に、栄養面では、十分なたんぱく質の摂取が不可欠です。肉、魚、卵、大豆製品などのたんぱく質を意識的に取り入れることが大切です。特に、高齢者は食欲が低下しやすいため、少量でも効率的にたんぱく質を摂取できる食品を選ぶと良いでしょう。また、ビタミンD(魚類、きのこ類)やカルシウム(乳製品、小魚)を十分に摂取し、骨や筋肉の健康をサポートすることも重要です。場合によってはビタミンD剤の内服を行います。
さらに、生活習慣の見直しも必要です。睡眠不足やストレスが続くと、筋肉の合成が阻害されるため、規則正しい生活を心がけることが大切です。また、定期的に筋力の測定や健康診断を受け、サルコペニアの進行を早期にチェックすることも重要です。気になることがある場合は、当クリニックにお気軽にご相談ください。