うつ病

うつ病・双極性障害イメージ

うつ病は、気分が落ち込み、興味や喜びを感じられなくなる病気です。医学的には「抑うつ」と言います。これは単なる気分の落ち込みとは異なり、長期間にわたって心だけでなく、体にもさまざまな影響を及ぼし、日常生活に支障をきたすことがあります。誰でも気分が落ち込むことはありますが、抑うつ状態が数週間から数か月以上続き、なかなか改善しない場合、うつ病が疑われます。

うつ病は特別な人だけがかかる病気ではなく、誰にでも起こり得るものです。仕事や家庭、学校などの環境によるストレス、人間関係の悩み、体の病気など、さまざまな要因が引き金になります。環境調整や適切な治療を受けることにより改善を図るようにします。

うつ病が疑われる症状

うつ病が疑われる場合、気分の落ち込みだけでなく、心と体の両方に症状が現れます。自分自身が感じる「自覚症状」と、周囲の人が気づく「他覚症状」の両方があるため、注意が必要です。

「自覚症状」としては、気分が沈み、何をしても楽しく感じられなくなることが多くあります。以前は興味があった趣味や好きなことにも関心がなくなり、何をするにも意欲が湧かなくなります。また体調面では、疲れやすくなったり、食欲が低下したり、眠れなくなったり、逆に、過食や過眠がみられることもあります。さらに頭痛や肩こり、胃の不調などがあらわれることもあり、人によって症状の現れ方は異なります。

とくに朝起きるのが辛く、午前中に気分が優れない「朝の抑うつ感」は、うつ病の特徴的な症状の一つです。うつ病が進行していくと、「自分は価値のない人間だ」「何をやっても意味がない」と感じることがあります。

「他覚症状」としては、表情が暗くなり、話し方や動作が遅くなることが特徴的です。周囲の人から見ると、以前と比べて元気がなく、無気力に見えることが多くなります。集中力がなくなり、職場や学校でのパフォーマンスが低下してミスが増えたり、遅刻や欠席が多くなったりすることもあります。また家族や友人との会話が減り、人と会うことを避けるようになることもあります。

うつ病の原因

うつ病の根本的な原因は未だ明らかになっていない部分もありますが、原因は一つではなく、いくつかの要因が絡み合って発症すると考えられています。

心理的な要因としては、過度のストレスやプレッシャー、重大な喪失体験(家族の死、離婚、失業など)が影響することがあります。また家庭や仕事、職場環境で強くストレスにさらされたり、転職や引っ越しなどで、周辺の環境に大きな変化があったり、さらに定年退職や目標達成など、肩の荷を下ろすような出来事でもきっかけとなることがあります。責任感が強く、完璧主義の人ほどストレスを溜め込みやすく、うつ病になりやすい傾向があります。

生物学的な要因としては、脳内の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの働きが低下することが挙げられます。これらの物質は、感情の安定や意欲に関わっており、不足すると気分が落ち込みやすくなります。またストレスによって、コルチゾールというホルモンが長期にわたり副腎から放出され続けることで、ネガティブな気分に陥ってしまい、発症するのではないかとも考えられています。

また、季節の変化によって気分が落ち込む「季節性情動障害」もあり、特に日照時間が短くなる冬に発症しやすいとされ「冬季うつ病」とも呼ばれています。このほか、加齢によって身体機能が低下したり、社会とのかかわりが減少したりすることがきっかけとなって起こる「老年期うつ病」や、甲状腺機能低下症・更年期障害などホルモンバランスが崩れる病気、一部の薬剤の副作用が原因となって起こるものもあります。

うつ病の治療法

うつ病の治療では、まず風邪などの身体の病気と同様に、しっかりと休養を取ることが大切です。場合によっては会社を休職したり、家庭にあっては一人でゆっくりできる時間と場所を確保したりすることが重要になります。

さらにストレスの原因となっている環境がある場合、その環境を変える「環境調整」を検討することも必要です。職場での配置転換や働き方の変更、また生活環境を変えることも考慮します。そうした取り組みと並行して、治療を行っていきます。うつ病の治療には、薬物療法、心理療法、生活習慣の改善の3つの柱があります。

薬物療法では、抗うつ薬を使用して脳内の神経伝達物質のバランスを整えます。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)といった薬がよく処方され、副作用の少ないものも増えています。適切な薬を、適切に使用していくことで症状が改善されれば、日常生活に復帰できるようになり、より回復が促進されることも期待できます。

心理療法では、カウンセリングや認知行動療法が行われます。うつ病の人は、物事を悲観的に捉えやすく、「自分はダメだ」「何をしても無意味だ」といった否定的な思考に陥りがちです。認知行動療法では、このようなネガティブな考え方のゆがみに気づき、現実的でバランスの取れた、前向きな思考を身につけることを目的としています。

また小さな行動目標を設定し、少しずつ達成することでポジティブな体験を積み重ね、自信を取り戻す方法も用います。治療は医師や臨床心理士と共に行い、日常生活で実践できるスキルを学ぶことで、うつ病の改善や再発予防につなげていきます。

さらに生活習慣の改善も、治療の重要ポイントです。規則正しい生活を送り、食事や睡眠のリズムを整えることが大切です。とくに適度な運動を取り入れることで、ストレスを軽減し、気分を安定させる効果が期待できます。

うつ病は、自分では気づきにくいことも多いため、周囲の人の支えも重要です。「気の持ちよう」「甘え」といった言葉で片付けず、温かく見守ることが、回復への大きな力となります。一人で抱え込まず、家族や友人、そして専門家に相談することも大切です。ご自身や身近な方で悩んでいる方がいらっしゃいましたら、お気軽にご相談ください。

双極性障害

双極性障害は、気持ちが極度に落ち込む抑うつ状態と、逆に極端に気分が高揚する躁状態を繰り返す病気です。うつ病でも抑うつ状態は現れますが、これとは治療法が異なります。なお、軽い躁状態などのときは、本人や周囲の方も病気とは気づかず、治療が積極的に行われないという場合があります。しかし、放置していると病状が悪化していくこともあるので注意が必要です。

双極性障害の原因・症状

双極性障害の詳しい原因は分かっていませんが、脳内のノルアドレナリンやセロトニンなどの神経伝達物質による影響について指摘されています。また、双極性障害による主な症状ですが、主に躁とうつの二つの両極端の症状がみられます。このうち躁の時期には、気分が高揚してエネルギーに満ち溢れたように感じられたり、上機嫌でおしゃべりになったり、じっとしていられなくなったりします。

一方、うつの時期には、気分がひどく落ち込み、憂うつな気分が続きます。何をしても楽しめなくなり、無気力になります。身体面でも、眠れない、食欲減退、疲れやすいなどの症状が強まります。さらに、物事を悲観的に考えがちになり、将来に絶望したり、自分を責めたりします。

双極性障害の治療

双極性障害の治療は、気分安定薬による薬物療法が基本になります。このお薬には、気分が大きく上下に乱れた状態を安定させる働きがあります。そのため、躁状態のときだけでなく、うつ状態の改善にも効果的です。さらに、認知行動療法などの精神療法を取り入れることもあります。これは、物事の捉え方や問題となっている行動を見つめ直し、自分の陥りやすい思考や感情パターンに気づいて、うまく心をコントロールできるようにしていく治療法です。